『この土地の暮らしに
調和するお酒を造る』
延享2年(西暦1745年)、江戸時代中期創業の酒蔵・花の露。
代表銘柄「花の露」は中国の古詩で美酒を讃える際に使用される「花露」の雅語に由来します。その受賞歴も華々しく、平成23年度酒類鑑評会の純米酒部門では最高賞を受賞。
また、フランス・パリ開催のKura Master 2020の純米酒部門では金賞を受賞するなど国内外で高い評価を得ています。
一般的に広く好まれる辛口の日本酒とは一線を画し、ほのかに甘く、ふくよかな味わいが特徴です。 Master 2020の純米酒部門では金賞を受賞するなど国内外で高い評価を得ています。
冨安社長:
「蔵が目指すところは、この土地の暮らしに調和するお酒を造ることです。」
この土地に調和するお酒とは?
「この土地の食べ物によく合うお酒です。いわば料理の引き立て役ですね。 九州の料理は北の地方に比べ、やや甘めの味付けが好まれます。味噌も醤油もこの土地のものはやや甘い。それはこの土地の風土や気候、人となりが生み出したこの土地ならではの特徴です。
土地の素材でつくれば、自然と土地の食べ物に調和する味になります。わたしたちのお酒は城島町の自然の恩恵を得たものですから、必然的にこの土地の食べ物に合うやや甘めのふっくらした味わいお酒になりました。」
暖かい地域で造るお酒はその素材や気候上、辛くなりにくいといいます。
この土地で生まれ、この土地の暮らしの中で求められるお酒こそ、「この土地の暮らしに調和するお酒」だと冨安社長は考えます。
希少な日本酒だけが
『本物』ではない。
日本酒離れが進む昨今。
その理由として、日本酒に「希少性」や「敷居の高さを感じる」との声も少なくありません。しかし日本酒は本来、ウイスキーやビール同様カジュアルな存在だと冨安社長は考えます。
花の露の日本酒は日常の中で、どのように愉しむことができるのでしょうか?
冨安社長:
「花の露の日本酒は、九州の家庭料理に特徴的な甘めの味付けにぴったりとはまります。
例えば九州のお醤油で甘辛く煮たお魚や、麦味噌を使った白和え。肉じゃがやひじきの煮物、そして甘めの九州醤油でつまむお刺身にもよく合いますよ。」
おすすめの飲み方はありますか?
「そのままでも美味しく召し上がれますが、今の時期(取材当時11月下旬)は旬のカボスやゆずを少し絞って飲むと一風変わって美味しいです。酸味を足せば洋風料理との組み合わせも悪くない。私はフルーツ系のお酢を少し足して飲むこともあります。社長がこんな提案をして良いのかな?(笑)でも、日本酒は自分のお気に入りの飲み方を工夫しても楽しいんですよ。」
とても自由に飲まれているんですね。
「もちろん。好きに飲んで良いんですよ。私は日本酒をロックで飲みもしますが、少しぬるくして飲むと、なお美味しい。寒い時期は体もあたたまります。」
花の露は料理に合うよう設計された日本酒で、香りは控えめ。香りが料理の邪魔をしないので、さまざまなアレンジが楽しめます。
『現代の暮らしに寄り添う
お酒の提案を』
日本酒は時代の変化に伴い“日常酒”としての親しみが薄れ、特に若い世代には日本酒のプレミアム志向が高まっているといいます。
それは「日本酒は希少なものこそ美味しい」というブランディングが先行し、高価なイメージが刷り込まれていった背景もありますが、ひとえに日本人の食生活と生活様式の変化が大きいと冨安社長は考えます。
冨安社長:
「まず食生活の変化により、日本酒が現代の食事に合わせにくくなりました。
フレンチやイタリアンにはワインが合いますし、焼き肉や揚げ物料理にはビールが飲みたくなる。日本酒のお供には煮物や白和えなど昔ながらの家庭料理が合いますが、その家庭料理すら、もはや一般的ではなくなってきました。」
冨安社長:
「もうひとつ、男女の働き方の変化も大きいのではないでしょうか。
かつては仕事から帰ってくる夫のために、妻が晩酌として日本酒を用意するという光景が文化としてありました。現代は夫婦共働きで、夫も妻も忙しい。さらに若い世代の傾向として、昔ほどお酒にお金をかけない方向に意識が変化してきたようにも感じています。」
若い世代にもカジュアルに楽しんでほしい。しかし、昔のように日常の中で日本酒が求められるシーンは減ってきたーー
このように人々の暮らしが変化していくなかで、花の露は酒蔵としてどのような提案ができるのでしょうか?
冨安社長:
「まず、私たちは創業から今までこの土地の恩恵を得て、この土地の暮らしに調和するお酒を造り続けてきました。世間でどのようなお酒が流行っても、この基本を忘れることはありません。」
冨安社長は、世間の流行に乗ることでこの土地の恩恵や人々の暮らしを無視するようなお酒を造ることはできないといいます。
「しかし日本酒が昔ほど人々の暮らしに馴染んでいない現実があります。そこで蔵として、”現代の暮らしにも馴染むお酒とは何か”を考え、これまでの日本酒造りの知恵と経験をもとに、新たな商品開発にも挑戦するようになりました。」
現代の暮らしに蔵が提案したいお酒とは?
冨安社長:
「日本酒は高価というイメージをお持ちの方や、度数が高いお酒に抵抗がある方にも気軽に手にとっていただけるよう、花の露の日本酒をベースにしたリキュールや梅酒を造りました。」
どのような特徴がありますか?
「林檎梅酒は、純米酒をベースに造った梅酒にりんご果汁をたっぷり加えたものです。爽やかな酸味と甘みが絶妙なバランスの仕上がりになりました。
原材料がレモン、米麹、砂糖のみで造られるレモネーゼは酵素たっぷりで、美容や健康意識の高い女性に人気があります。」
そのほか城島町で育った山田錦と赤紫蘇を使用した本格焼酎「山の香」や、山の香をベースに作られた梅酒「しそのかほり」など日本酒以外の商品も多数展開しています。地元で長年愛されてきた日本酒をベースに、現代の暮らしの中で求められるお酒造りを模索しています。
『時代の変化を受け入れながらも、
蔵の信念を貫く姿勢を』
「創業から280年余、花の露はここ久留米市城島町の豊かな自然を十二分に活かし、「この土地の暮らしに調和するお酒を造る」という思いを軸に酒造りの歴史を重ねてきました。
酒どころの老舗の名に恥じないどっしりとした身構えで信念を貫く一方、現代の人々の暮らしに寄り添うお酒の在り方を追求し、提案を重ねていくフレッシュさも兼ね備えています。
冨安社長:
「日本酒は“着物”のような存在になりつつあります。
かつて普段着だったものが、現代ではほとんど着る機会がなくなってしまいました。日本酒もまた、人々の日常から離れつつあります。」
「しかし日本酒は本来日常酒として、とてもカジュアルに楽しむもの。わたしたちはこの土地の暮らしに調和するお酒を造り続けながらも、これまで培ってきた蔵の知恵と経験をもとに、現代の暮らしに寄り添ったお酒の提案もしていくつもりです。」
蔵の信念を貫きながら、進化をやめない老舗酒造・花の露。蔵の挑戦が、日本酒の未来に大きな花を咲かせてくれることを期待しています。
現場でのこだわり
- ・流行に流されない「地産地消」の酒造り
- ・九州の家庭料理との相性が良いお酒